ワインの欠陥臭(還元臭って何?)

ポイント

✅ 還元臭はプロのコミュニティの中でも様々な使われ方がされるため混乱が起きています。

✅還元臭は硫黄由来の香り。腐った卵、擦ったマッチ、煙などの香りが含まれます。

✅還元臭は畑、発酵、熟成、瓶詰め時と多岐にわたる原因が絡むため、どの段階で発生したのか判別する事は極めて難しく、断言はできない。

✅還元臭には空気と触れさせる事で消えるものと消えない/消えにくいものがある。

✅全ての還元臭が悪いわけではない。意図して還元臭を作り出す醸造家も増えている。

✅還元臭は醸造時に抑制できる。巧妙な醸造技術によるもので、土壌との直接的な因果関係はない。

一人歩きする用語。“還元臭”

ワイン業界にいる方や愛好家なら誰しもが聞いたことのある言葉。特にワイン歴が長かったり詳しい方がこの用語を使っているイメージがありますが、様々な方が異なる使い方や解釈をして、用語だけが一人歩きしていているように感じます。

そこで、今回は還元臭をしっかりと定義づけをして、共通認識の醸成を試みます。そして、一般的にネガティブな文脈で語られる還元臭が必ずしもネガティブなではないという事も最後にお伝えできればと思います。

還元臭はどのような香り?

還元臭には一般的に腐った卵、温泉、硫黄、擦ったマッチ、煙、焦香り、発酵したキャベツなどの硫黄系の香りがあります。フレッシュな白ワインに感じることが多いですが、赤ワインでもヴィンテージの若いワインに感じる事があります。

ただし、還元という言葉の中にワインが閉じている(香りがとりにくい)と言う意味合いで使われる事もあります。この場合、更なる瓶熟成、もしくは抜栓したワインだとデキャンターなどにより空気に触れさせる事でワインが開く事もあります。

感じ方のバラつきの理由

これら物質が様々な濃度や形で存在し、またワインの他の物質(例 他の香り成分やポリフェノール)との絡み合いがあるため、香りの感じられ方は非常に複雑です。これに加えて、人の香りに対する閾値が異なるため、同じ成分であっても、香りを全く取れない人や過敏に反応する人がいます

(例えば、オーストラリアの実験によると、ロタンドンと呼ばれる胡椒に含まれる香りは被験者の20%が高い濃度でも全く嗅ぎとる事ができないという報告があります)。すなわち、飲み手にとっては何が還元臭でそうでないのかを判断する事が容易ではありません。

還元臭の原因?

還元臭の発生原因は複雑ですし、様々な物質が絡んでいる事もその判別の難しさに影響していると考えられます。原因物質は硫黄系の物質ですが、硫化水素(H2S), エタンチオール(CH3CH2SH)、メタンチオール(CH3SH)、ジメチルジスルフィド(DMDS)など様々な硫黄系の物質が絡んでいます。そのため、それぞれの成分の濃度及びに他の香り成分との関係性により香りの感じ方が変わります。

これらの物質は以下の原因で発生すると言われています。

※かなりマニアックな内容ですので、初学者は飛ばして読んでもらった方がいいかもしれません。

  • 収穫前の硫黄物質の散布
防腐剤。硫黄の散布

防腐剤として硫黄を畑に撒くことがありますが、収穫直前だと、残留物が残る可能性があります。硫黄が多く含また果汁を発酵させると主に硫化水素の香りが生成されます。しかし、これが主たる原因になる事はほとんど無いと言われています。

  • 土壌や果汁の窒素分の欠如

土壌に窒素が欠乏すると、ブドウにも窒素分が少なくなる場合があります。酵母はアルコール発酵を健全に行うために栄養素(窒素やビタミンなど)が必要になります。しかし、これが足りないと、必要分を自ら捻出するために、アミノ酸から窒素分を取り出そうとします。この複雑な分解プロセスの中で大量の硫化水素(H2S)を放出することになり、還元臭の原因となるようです。

一般的には窒素不足はワインメーカーにとって最大の懸念材料の一つのため、果汁の窒素含有量が検査され、値が低いとDAPと呼ばれる窒素が含まれる栄養素が加えられる場合があります。

  • 熟成環境が還元的な場合

還元の反対は酸化だという事はご存知だと思いますが、果汁あるいはワインを空気との接触を減らす環境を作ると還元状態となります。このような環境では、例えば硫黄が還元され硫化水素(H2S)などの還元臭が生まれます。

一般的には白ワインの方がフレッシュさを重視するため、赤ワインに比べて空気と触れさせない醸造や熟成方法を選択するため、還元臭が発生しやすいといえます。例えば、赤ワインだと樽が頻繁に用いられますが、樽は空気を通しますが、白ワインだとステンレスタンクで空気を遮断して醸造や熟成がされる場合が多く、空気と接触を最小限にします。

ただ、たとえ樽を利用していたとしても還元的な環境は作れます。発酵後の酵母の死骸が澱となりますが、一説には澱に含まれる硫黄成分が分解され、還元臭が生成されると言われます。また、樽中の酸素が澱の攪拌により吸収され樽が還元的な環境になり還元臭が生まれやすくなるとも考えられています。もしくは、発酵後に生成された硫化物(硫黄)がワイン中の他の物質に吸着or結合して、熟成時に放出される考え方もあります。(Goode, 95)

  • 多量なSO2(酸化防止剤)の投入

SO2はワインを酸化から守ると同時に、硫黄物質が含まれるため、還元臭の原因になりうるようです。

  • クロージャーによる原因

従来、スクリューキャップの方が酸素透過性が低いためコルクに比べて還元しやすいと言われていました。しかし、AWRI(オーストラリアの研究機関)がIWCの9年間のデータを参照したところ(サンプル数10,0000)、還元臭による拒絶はスクリューとコルクでは同じ0.81%だったそうです(Goode, p.110)。

クロージャーによる違いよりも、ボトル内の酸化還元電位(単位はミリボルト(mv)エアレーションされたワインは400~450mV。150mV以下になると還元の恐れがあるみたいです)が関係していると言われています。また、ボトルの溶存酸素, フリーSO2(酸化の産物と反応する事でワインを酸化から守る)などが複合的にワインの酸化・還元に影響しているという報告もあります。

最後に、近年の技術の発達により、スクリューキャップでも酸素透過性をコントロールできるものが開発されています。つまり、クロージャーは酸化・還元に影響しますが、その因果関係は必ずしも直接的ではないという事です。

還元臭は消える?

初めボトルを開けた時はすごく還元していたのに、時間がたつと還元臭が消えたと経験された人はいるのではないでしょうか!?還元の原因となる硫化水素は揮発性が高いため、空気と接触させる事で消える場合があります。しかし、デキャンタージュやスワリングしても消えない還元臭もあり、その代表がチオール系(硫黄が水素に結合したSHの化学式のもの)の還元臭で、酸化に動じない安定した形のため、香りもしつこく残るようです。

還元臭はテロワールの一部か?

火打ち石の土壌

ワインと土壌には深い関わりがあり、例えば石灰質土壌や火打ち石を含む土壌から作られたワインは石灰質や火打ち石の香りや味がすると業界の多くの方に根強く信じられています。確かに、これまでテイスティングをしてきたワインの中でそのように表現したくなる、またそのようにしか表現しようがないワインを試飲してきました。ミネラル感、火打ち石、塩味と業界では表現される事が多いと思います。

しかし、科学界は否定的な意見が多数です。なぜなら、火打ち石も石灰質も反応しない物質のため本来香りと味わいがしないはずだからです。さらに、あるミネラルが豊富な土壌だからといって葡萄の根っこが能動的に吸収するものでもない上、土壌のpHによっても吸収できるミネラルが異なります。例えば、カルシウムが豊富な土壌では鉄、フッ素、マグネシウムの吸収を阻害します。カリウムが豊富だとマグネシムの吸収を阻害します。

つまり、仮に醸造する以前の土壌の母岩がフリント(火打ち石)で構成されているといっても、土壌の条件のみならず、複雑な栽培、収穫、醸造、熟成を得てワインが出来上がったものに対して、母岩が火打ち石だから火打ち石の味が感じ取れるといった結論に至るのは少し不思議に思います。

それでは、実際に感じるミネラル感や塩味は何が原因なのでしょうか?

はっきりと答えは示されていませんが、一部の有力説が還元臭です。つまり、ミネラルと表現される香りは硫黄の香りの一種と捉えられる事ができます。また、例えば冷涼な産地(例 シャブリやピュイィ・フュメ)では果実味の弱さ/ニュートラルさと酸の高さがミネラル感を助長させるため、より強くミネラル感を感じるのかもしれません。

塩味もよく表現されるワードですが、本当に塩味がワインからするのでしょうか。塩はNaCl(塩化ナトリウム)ですが、もしナトリウムの含有量がたくさん含まれているのであれば、塩味がしてもおかしくないですが、ナトリウムの含有量はワイン間で変わらないと報告されています。従って、ワインに感じる塩味は塩ではなく別の要因が関係していると考える事ができます。最も有力な説が、口の中の受容体が酸味と塩味で同じであるため、酸味を塩味を混同すると考えられています。おそらく、理由は複合的なものであるため、明確な答えは先になりそうです。

“良い” 還元臭 vs “悪い” 還元臭

結論から書きますと、ワインは嗜好品のため、良し悪しを判断する事は極めて難しいです。

何が欠陥でそうでないかは人それぞれの閾値や許容範囲が異なるため、善悪は相対的に捉える必要があると思います。

・敢えて還元臭を作り出す場合はポジティブな場合がある

わずかに還元臭があるとポジティブと捉える方もいます。ほんのわずかに擦ったマッチの香り、濡れた石の香りや火薬の香りはワインに透明感、清涼感、複雑性やエレガントをもたらすという考え方があります。

そのため、ワインメーカーの中には敢えて果汁の窒素分を抑えたり、還元的な環境を作り出すことで“良い還元”を生成する事があります。

意図して作っているため、ある意味“良い還元”といえるかもしれませんね。

代表的なものに、ルーロ メソッドというものが有名です。このメソッドでは、発酵時に澱を多く残し、発酵後に一年樽熟成させ(2〜3週間に一回バトナージュを行う)、最後にワインをステンレスタンクに移して6ヶ月寝かせることで還元状態に持っていく手法です。

その結果、果実味の中に多少の濡れた石やマッチの香りが含まれるとワインが複雑に感じられると思います。

・悪い還元臭

個人的には還元臭の香りの濃度が高くなればなるほど欠陥と捉えます。極端な例では腐った卵、擦ったマッチや排水溝みたいな香りが強いと欠陥と感じます。また、果実味を極端に覆い隠す還元臭は、ブドウ本来の香りや熟成による香りを覆い隠すためネガティブだと思います。ただ、どのレベルで還元臭が受け入れられるか否かは個人差はあると思います。

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ワインの欠陥臭(還元臭って何?)” に対して2件のコメントがあります。

  1. やざわ より:

    すごく素敵で分かりやすくて、勉強になって、そして素敵な記事でした。ありがとうございます。

    1. Konomi より:

      やざわ様
      ご愛読&コメントありがとうございます!!(^^♪

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