サンジョベーゼ深堀
下記記載の内容は "World Atlas of Wine"(2018年版)や
Ian D'agataの "Italy's Native Wine Grape Terroir"(2019年版)
を一部引用翻訳した内容が含まれますが、個人的な見解や感想も
含まれます。一部、認識違いの内容などあれば、ご指摘いただければ
幸いです。
- サンジョベーゼはイタリアでしか成功しない!?
イタリアのトスカーナで有名な赤品種といえば、
サンジョベーゼが頭に浮かぶ方が多いのではないでしょうか?
サンジョベーゼ種から作れらるブルネッロやキアンティクラシコは
間違いなく世界で最高品質のワインが作られ、世界中で消費されています。
また、一部の希少性の高い高級ワインはオークションで取引されています。
しかし、これだけイタリアで成功しているにもかかわらず、
イタリア外での生産は限定的で知名度も低いです。
フランスから広がり世界中で有名になった
カベルネソーヴィニオン、メルローやシャルドネが成功しているのに対して、
(例えば、オーパスワンやサッシカイヤ)、
サンジョベーゼはなぜ成功例が少ないのでしょう!?
複合的な要因に起因するもので、
未だに明確な答えはありませんが、
考えられる要因を考察していきます。
一つ目の要因は、
非常に育てにくく育つ環境を選り好みをする品種だという点です。
まず、生育期間の条件として、
発芽が早く成熟の遅い品種のため長い生育期間を必要としています。
つまり、ブドウが成熟するためにはたくさんの熱と光が必要なのです。
そのため、一般的にはイタリアのような
温暖な地中海性気候が適していると言われます。
実際フィレンツェの生育期間の平均気温(4月〜10月までの平均値)
は20度と他のワイン産地と比べても比較的高いです(例えば、
ボルドーは17.7C, ナパ19.3C, 南ローヌ19.7C)。
※ただ、近年は温暖化の影響で糖度の上昇がフェノールの成熟より
著しく早まっているため、青さや苦味が目立つヴィンテージも増えています。
また、近年フレッシュで低アルコールなスタイルが流行っていることもあり、
より冷涼な標高の高い畑や北向斜面が注目されています。
二つ目の要因は、
樹勢が大変強い品種で、果皮が薄い品種特徴があるため、
栽培コストが上がりやすくヴィンテージの差があらわれやすい点が考えられます。
樹勢を抑える方法としては、
痩せた土地での栽培、
樹勢の低い台木の選択(420Aが最も使われ、
旱魃の多い所だと110Rが使われる事が多いみたいです)
、収量の低いクローンを利用(chianti classico 2000 projectにて開発)
剪定、間引きやグリーンハーヴェストなどの厳格なキャノピーマネジメント
など様々ありますが、
基本的には熟練者の経験やノウハウが必須になり、コストがかかります。
また、果皮が薄いとカビ病への耐性も弱いため、
栽培時の病気のコントローにも非常に労力とお金がかかります。
収穫期直前に雨が降った場合、
ブドウの実を水分で肥大させ風味が薄く凝縮度の低いブドウに
なる可能性があります。
つまり、ヴィンテージの影響を強く受けやすい
ワインと言えます。
近年では2014ヴィンタージは雨がたくさん降った年で、
夏場の日照量が例年より極端に少ない上、病気も蔓延したため、
ほとんどのワイナリーで収量の激減とクオリティが全体的に下がりました。
ブルネロの生産者の殆どは、製造されたワインが
ブルネロの名に相応しくないと言う理由で、
リゼルヴァの生産を取りやめたり、
ロッソディモンタルチーノに格下げを行いました。
最後の要因として(個人的には)最も重要な点である需要と供給のバランスです。
栽培のしやすさ及び知名度の高さ(ボルドーやブルゴーニュ)の点で
当初はアメリカのカルフォルニアで需要が高まり、
パリの審判(1976年)を契機に
アメリカ西海岸で一気にカベルネやシャルドネが増殖され
多額の研究費(Davis校の研究など)が回される事になりました。
また、様々な生産者の長年の試行錯誤や栽培醸造のノウハウの蓄積の結果、
これだけの成功を収めたのではないでしょうか!?
これに対して、
サンジョベーゼはイタリア国内を除き、世界での栽培は限定的で、
栽培が爆発的に広がる要因(需要が爆発的に増える理由)
がなかったのかもしれません。
Sam Harrop MWが言うように潜在的に高貴品種は存在せず、
あくまで人為的であると仮定するならば、
需要が爆発するきっかけさあれば、
サンジョベーゼも十分にその可能性はあるのではないでしょうか!?
上記写真はコントゥッチ(ヴィーノノーヴィレ)の時の写真で、
スラヴォニアンオークだったように思います。
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- サンジョベーゼの特徴と個人的な感想
<色調>
サンジョベーゼ100%だと、
基本的には淡い色、もしくは中程度のルビー色のものが多いです。
(サンジョベーゼのアントシアニンは
酸化しやすい淡い色調のぺオニンとシアニジンが多く含まれ、
かつ、
複合化したアントシアニン(conjugated anthocyannin)が少ないため、
色調がカベルネやシラーのように濃くなる事はないみたいです。
※サンジョベーゼらしくない色の場合は
カベルネやメルローなど国際品種がブレンドしていると疑います。)
<香り>
フローラル(主に果皮に含まれるリナルールやα-テルペネオール)や
ドライ オレンジピール (ネロリドールやシトロネロール)などあります。
個人的には、
オレンジピール、トマトリーフ、ベイクドチェリー、ローズペタル、
タイムやローズマリーといったハーブもよく感じます。
標高の高いエリアや冷涼なエリアで作られるサンジョベーゼは
フローラルさレッドチェリーの香りが際立つイメージがあり、
よりエレガントでミディアムボディの印象を持ちます。
<味わい>
一般的には酸とタンニンが高い品種です。
タンニンの質もザラザラとしたような
歯茎をサンドペーパーで擦ったような質感のものが多いように感じます。
もちろん、作られる場所や作り方によってもキャラクターが大きく変わるため
一般化する事は困難ですが、
キアンティクラシコの中でも標高の高いガイオーレやラダでは
ミディアムボディで酸が強く感じられ、
カステラノーヴォベラデンガなどキアンティクラシコの
南の方のより暖かく乾燥しているエリアではフルボディで
ブラックチェリーのニュアンスが強く感じられる傾向があります。
ブルネロディモンタルチーノでも
一般的には、より冷涼な北半分はエレガントなスタイル、
南半分はパワフルなスタイルに分別できます。
- ブルネッロディモンタルチーノは何故偉大で高価なのか?
トスカーナの中でも、最も高級で高品質なサンジョベーゼが作られるの産地が
フィレンツェとシエナの南に位置する、
モンタールチーノ村と呼ばれる丘の上にあるワイン産地です。
この産地が秀逸な一番の理由は、
ここの北にあるキアンティやキアンティクラシコに比べ、
より暖かく乾燥していると言う点にあると言われています。
その結果、ブドウの身は非常に小さく実り、
果皮に対する果汁の比が小さくなるため、
より骨格のしっかりしたパワフルでリッチな
長期熟成に向いているワインに仕上がる傾向があります。
ブドウの最大収量も54hl/ha(トップ生産者はもっと低いです)と凝縮度が高く、
果実風味の凝縮したブドウが作られます。
このようなワインは飲み頃になるには時間が要するため、
熟成期間も収穫翌年の1月から起算して最低5年(内最低2年の樽熟)
と定まれています(リゼルヴァだと最低6年内3年以上の樽熟成)。
熟成の結果、リリース直後からワインの酒質が落ち着き、
角のとれた(果実味、酸、タンニンの調和)
熟成香が現れはじめた複雑性の高い、
ある程度飲みごろを迎えている
ワインがリリースされます。
その代わり、通常のキアンティクランシコなどに比べて
値段が高価になりがちです。
よりベストな状態で飲めるのは
消費者に優しい制度ではないでしょうか!?
消費者からすると、嬉しい話ではないでしょうか!?
ただし、個人的な経験から言うと、
殆どのブルネッロはのみごろを迎えるにはもっと年月が必要
だと感じます。