ボルドーのテロワール 2 (メドックの土壌を深堀)
前回の記事ではボルドーのテロワールの成り立ちについて話しました。今回はメドック地区のテロワールについて詳しく解説します。
土壌により植える品種が異なる
一般的にカベルネ・ソーヴィニオンは砂利土壌、メルローは粘土質土壌を好むと言われますがなぜでしょうか?
カベルネ・ソーヴィニオンが砂利質土壌を好む理由!
- カベルネが晩熟な品種のため
メドック地区はカベルネ・ソーヴィニオンを完熟させる北限地であり(メルローに比べて成熟も遅いため)、最も温暖で完熟する可能性のある場所が適地だと言われています。
砂利は保温性が高く温まりやすい性質があります。その反面、一般的粘土質土壌は膨らむ性質を持ち水分を蓄えやすく温まるために時間がかかる(排水性が高いものも存在する)性質があります。そのため、ボルドー地方において、ブドウが完熟する可能性が高いのは粘土よりも砂利土壌だといえます。
別の側面から考えると、排水性が良い=水分が少なく温まりやすい事から、ブドウの芽吹きのタイミングが早く、生育期間が伸びる、つまりブドウが長い生育期間をフル活用することで、完熟しやすい性質があります。
最後に、土壌の水分の保持の観点から考えると、粘土質土壌の方が水分を保持する性質があり、一般的に余剰水分が根っこからブドウの実に供給されることで風味が薄まる懸念もあります。砂利土壌だと、余剰水分を吸収する事が物理的に妨げられるといえます。カベルネは実が小さく、果皮の比率が果汁に対して高い方が一般的に高品質なブドウが作られるため、水分が少ない土壌の方が適していると考えられます。
これら三つの観点から、カベルネ・ソーヴィニヨンは粘土質土壌より砂利質土壌の方が適している事がわかります。そのため、ボルドーの格付けシャトー、特に最も品質の高いカベルネを作るシャトー(例えば、ラフィットやマルゴー)では砂利土壌でカベルネを栽培している事が一般的だと言えます。その他の土壌(例えば粘土質土壌)、ではメルローなどの早熟の品種が植えられる傾向があります。
それでは、それぞれの有名なコミューンの代表的な土壌やミクロクリマをご紹介いたします。
マルゴー
唯一、6つのテラス(T1~T6)を有します。これらの砂利のテラスは小川によって分かれているため、メドックの中では最も起伏があり、全体的に砂利のサイズは小さく腐食土などが少ない事が特徴です。
アルサックの自治体などマルゴーの南のエリアは主にT1,T2,T3のテラスで構成されており、砂利はピレネー山脈由来の直径35mm以下のものが多く、有名なシャトーはT3テラスに多く分布しているようです。
ジロンド川近くのエリアはマッシフ・セントラル由来のT4,T5,T6のテラスを有し、砂利も直径80mm以下のより大きいものが目立ちます。
代表的なシャトー
- Chateau Margaux : 畑の広さは1855年の格付け当時からあまり変わっておらず、3/4が深くとても痩せた砂利土壌であるため、カベルネ・ソーヴィニヨンに適している条件が揃っています。他には粘土質土壌や小砂利に轢かれた石灰岩などもあるため、メルローやカベルネ・フランが植えられています。
ポイヤック
他の村と比べ、ジロンド川の近くに産地が広く分布するため、川の影響を強く受けます。2017年のような霜害がフランス全土で酷かった年でも、川からの風の流れにより被害が軽減されたようです。川が作り出す対流は侮れないです!
土壌は北に位置するエリアは主にテラス3、南側がテラス4の砂利と構成が異なります。また、砂利質の下にはマール、粘土や石灰土壌があります(ラトゥールは下層の粘土質土壌の恩恵を受けています。暑く乾燥した年は粘土が水分を保持してくれます)。
- Ch Lafite Rothchild : 砂利土壌が最も多く、場所によっては10mと深く、母岩は主に石灰岩です。
※ラフィットは全ての樽を自主生産していて(アリエとニヴェルネの森のもの)、世界中のロートシルトのバレルを供給しているようです。 - Ch Latour : 粘土質土壌の割合がより高く、ペトリュスのような粘着性のある粘土が砂利に覆われていいます。ラトゥールの力強さはこの粘土質土壌由来とも言われています(何故でしょうか!?粘着性の強い粘土はもしかしたら水分を強く保持したり、CECが低く栄養分を簡単に渡さない事でブドウの樹勢が下がり、間接的に収量制限及びブドウの凝縮感に繋がっているのかもしれません。)。
区画がジロンド川から遠くなるほど、セカンドやサードラベルに入るブドウになるようです。 - Ch Mouton Rothchild : ムートンの台地は98%が砂利土壌で2%が粘土。5haほど120年の古木が植えられているようです。
- Ch Pichon Comtesse de Lalande : 主に砂利土壌と鉄分が豊富な粘土の下層土が特徴のため、2003や2009のような猛暑のヴィンテージは粘土質土壌が少ない場所に比べて品質が秀でていたようです。ここは、カベルネは砂利土壌、メルローは粘土質土壌に植えられている典型的な例。
- Ch Clerc Milon : 2/3が砂質と砂利土壌、所々に粘土石灰質土壌。他のポイヤックに比べて、粘土質土壌がより表面に近いため、ブドウの成熟が比較的遅く、暑いヴィンテージの水分ストレスを受けにくいが、冷涼なヴィンテージだとカベルネの成熟が難しい可能性がある。
サンテステフ
テラス3の砂利の台地(コスとその周辺)と東の川よりはテラス4の砂利(モンローズのエリア)、西のエリアでは石灰岩がむき出しになっています。砂利の台地を下った低地のエリアは砂と粘土質土壌が多いと言われています。
代表的なシャトー
- Chateau Montrose : 畑が川沿いにあり、風の循環がよいため、ブドウが比較的カビなどの病気になりにくい特徴があります。カベルネは東側のT4と西側のT3の砂利土壌に植えられ、メルローは西側の粘土石灰質土壌で植えられているようです。
- Chateau Cos d'Estournel : 谷の反対にあるラフィットと同じくらい排水性の良い土壌が特徴で、主に粘土土壌の上に砂利。現在はカベルネの植木率は56%(2018年時点)だが、10年後には69%にあげる予定だそうです。
- Ch Calon Segur : メドックの沼地が排水されるまで、ローマの要塞があった場所のため、サンテステフでは最も高い位置にあり、砂利と下層に粘土土壌があるようです。ここも2018年時点カベルネ53%だったのを2032年までには70%に比率をあげるようです。
サンジュリアン
5km×3.5kmの長方形で比較的、均一なテロワールで76%ほどが砂利土壌です。所々、砂質砂利や粘土土壌がありますが、ポイヤックやサンテステフより少ない事が高いカベルネ比率の理由だそうです。
テラス3は最高23mの高さにのぼり(15−17mまで下がる)、アぺラシオンの中央に位置しており、主に粘土、砂利土壌がさらに細かい砂利と砂土壌に覆われている。テラス4はよりジロンド川に近く高さは17mくらい(7mまで下がる)。テラス4の砂利は3に比べて大きい。
- Ch Leoville Las Cases : レオヴィルの台地はボルドーの中でも最も良い土地とされており、排水性の素晴らしい砂利土壌(場所によっては10mほど深い)。川に近い砂利土壌にカベルネが植えられ、メルローは砂質土壌や粘土砂質土壌に植えられてるようです。
- Ch Leovill Poyferre : 砂利、粘土、砂質砂利土壌。カベルネが65%, メルロー23%, フラン4%, プティヴェルド8%が植えられており、メルロー比率が三つのレオヴィルの中で最も高く、また遅ずみを実施しています。
- Ch Leovill Barton : 砂利と粘土砂利土壌、74%がカベルネ、23%メルロー、3%カベルネフランが植えられています。
ムーリ
粘土質土壌が多く、川の影響も比較的少ないため、カベルネは成熟する事が困難な場合があります。しかし、砂利土壌で生産されるワインは素晴らしく、メドックの格付けワインと遜色ないワインができます。最も、評判が良いのは北東エリアのグラン プジョーの台地で、粘土石灰質土壌の上にテラス3の砂利がある Ch Chases SpleenやCh Poujeauxは砂利の多い土壌で生産され、素晴らしいワインが出来上がります。
リストラック
粘土石灰質土壌がリストラックの中心から広がり、粘土質が主体なため、メドックで最も晩熟のテロワールになります。シャトークラークなどの石灰岩ベースの浅い粘土土壌は猛暑のヴィンテージ(例 2018年)に最も素晴らしい出来になり、やはり品種を見ると、メルローが70%、カベルネ30%の割合となります。
オーメドック
多くが砂利土壌。ソシアンドマレは格付けレベルと言われています。サン スラン ド カドゥールヌと呼ばれる砂利の台地から作られるワインは秀逸です。
メドック
殆どがメドックの中でも北の方の、風が強く冷涼なテロワールの事を指しています。そのため、メルローの方がカベルネより成熟する可能性が高いです。2000年、2005年、2010年、2016年のようなグレートヴィンテージは良いワインが見つかります。シャトーポタンサック(ラスカーズのオーナーが所有)は石灰岩の上に粘土砂利土壌が広がり、比較的カベルネ比率が高いです(メルロ48%、カベルネ33%)。
Citation (文献)
Anson, J., 2020. Inside Bordeaux The Chateaux, their wines and the terroir. 1st ed. London: Berry Bros. & Rudd Press, pp.1-100.
Berry Bros. & Rudd. (2020), [Image] LEFT BANK AND RIGHT BANK. London: Berry Bros. & Rudd Press
こういう事を検証するワイン会をして欲しいな。気候が寒かった年と暑かった年の垂直を
2ヴィンテージずつ4本で試飲してみるとか。
5大シャトーやスーパー2ndでなければ、ある程度リーズナブルな会が出来るのでは。
最近はお金持ち相手のワインディナーばかり見ていて、単純にワイン美味しいだけの会は辟易としてますから、ちゃんとしたテーマでワインを知る術を知る様な提案を余り見ないから。
是非ご一考を。
コメントありがとうございます。