ボルドーのテロワール 1 (土壌や母岩の成り立ち)
✅ボルドーにとって、テロワールは重要な概念である。土壌や母岩とワインのクオリティには明らかな関連性がある。 ✅ボルドーの土壌を理解するためには氷河期前と氷河期後の時代に分けて考えると分かりやすい。 ✅ざっくりと、左岸は氷河期が産地形成に大きく影響、右岸は氷河期以前の時代の母岩の形成が鍵になる。 |
テロワールという概念はブルゴーニュだとピンと来るけど、ボルドーの”テロワール”といっても大抵の人はイメージがつきにくいかもしれません。
確かに、ボルドーの格付けの対象はシャトー、つまりワイナリーに対してであるのに対して(サンテミリオンは例外)、ブルゴーニュのモンラッシェやロマネコンティのように最高区画のブドウが出来る畑が格付けの対象ではないという点、また単一品種のワインではなく、異なる品種や場所をブレンドさせる文化のあるボルドーが”テロワール”という概念から遠ざけられてきた要因の一つだと考えれば、筋が通ると思います。
従って、ボルドーワインは”人”という要素が”場所”よりも品質を決める上で重要であると思われる所以なのかもしれません。
しかし、ボルドーの気候や土壌・母岩の条件を観察すると、安定的に良い品質の葡萄がとれる場所、ヴィンテージによって大きな差異がある場所など、いくつかのパターンが見えてきます。
つまり、”場所”は品種、品質、スタイルを決定づける一大要素であるともいえます。
ボルドー専門のジャーナリスト、ジェーン・アンソンは土壌学者のコーネレス・ファン・レーウェンや気候学者のバンジャメン・ボワなどの助けを得て、著書Inside Bordeauxにてボルドーのテロワールの詳細な説明とその重要性を説いています。
以下、Inside Bordeaux 記載の内容(英文)を掻い摘んで、土壌・母岩の成り立ちについてまとめました。
そもそも土壌・母岩とは、表面上にある目に見える部分と、見えない下層部分を総合して指します。私達は目で見える部分(=表土)を土壌と呼ぶ傾向がありますが、直接目に見えない下層の土壌や母岩について理解する事も同じくらい重要です。
なぜなら、表土とその下は全く異なる性質である事が多く、例えば根っこの深さ、養分や水分の吸収効率、pH、根の周りの温度や微生物の種類や働きが変わると、ブドウの代謝、生育、成熟に大きな影響を及ぼし、最終的には品質に大きな影響を及ぼすためです。カベルネ=砂利、メルロー=粘土土壌が適しているのは、このような事情が関係してきます(次回解説します)。
そして、目に見える表土という情報のみから母岩について、強いてはワインの味わいについて予測する事は極めて困難です。土壌の深さや構成、母岩のみならず、気候、天候、ミクロクリマ、クローン、目指すスタイルや品質なども合わせて考える必要があります。どの条件がより影響力が大きいかはその産地や様々な条件によって変動するため、分かりやすい包括的な方程式は存在しないと考えても良いと思います。
次に、ボルドーという産地の形成を体系的に理解する上で、海、地殻変動、氷河、川、山脈の影響を複合的に考える事が重要になりますが、大まかに氷河期前の時期(5600万年前〜2800万年前=第三期)と氷河期の時期(250万年以降=第四期)という2つの時代に区分する事で理解しやくなるかと思います。
氷河期前の時期には海と山と地殻変動の影響により、最も古い土壌・母岩(石灰質などの母岩)を形成しており、
その後の氷河期の時期にボルドー左岸を特徴づける土壌の表土とその下層を形成(母岩以外の砂利や粘土)したと考えられています。
- 氷河期以前 『第三期』
現在のピレネー山脈やマッシフ・セントラル(中央高地)から現在のドルドーニュ川やガロンヌ川のルーツにあたる川が大西洋に向かって流れていましたが、海抜の低下と地殻変動による山の隆起により、川の流れが一気に早まり、山からの土砂がボルドーを経由して大西洋に流れ込んでいきます。
また、この時期にボルドーは海に覆われる事となり、海から石灰、砂や泥の堆積の結果、メドックやサンテミリオンなどの石灰質由来の母岩が形成されたと言われています。サンテミリオンがメドックの比較的に平地とは異なり丘になっているのはこの時代の地殻変動による隆起によるもので、メドックに比べ、石灰質土壌が地表に近いため、表土はメドックよりも古い土壌と言えます。
古いから良いという事ではなく、土壌の構成や性質が異なり、その結果、適した品種が違うという意味合いになります。
※石灰質土壌のイメージが一般的には薄いメドック地区は実は地中深くに石灰質の層がみつけられるます。 - 氷河期『第四期』 (250万年>)
氷河期と温暖期が繰り返しますが、氷が溶けると共に海抜も低くなり川の流れが一気に強まり、土砂が山の方から一気に流れます(ガロンヌは今より100mほど低かったようです)。
そして、氷河期の再来と同時期に、海抜が上がり、川の流れが緩まる事で海に流れる土砂が堆積していきます。このサイクルの中で、風化が起き、砂利、砂、粘土、石灰質が層になったようなテラス状の土壌や母岩が出来上がります。
土壌の専門家は、どの時期に砂利が流れてきたのか、それがピレネー山脈由来なのか、マッシフ・セントラル由来なのかを特定して、その特徴からT1からT4(特にボルドー左岸)と名前をつけています。
※T1は最も古く砂利の直径が最大30mmで高さ40-45m付近にあり、
T2は最大50mmの砂利の下に粘土があり29mの高さ、
T3は最大80mmの砂利の下に粘土石灰土壌で21-26mの高さで多くのトップシャトーが名を連ね、
T4はガロンヌに近い20-22mの高さで最大80mmの砂利でここも多くのシャトーが有り、
T5は最大100mmで17-19mの高さにある
と言ったようにそれぞれのテラスに名前がつけられています。
あまり、長くなると読者も飽きると思うので、今回はこの辺りにして、
次回はもう少し土壌や母岩、気候とワインのクオリティやスタイルの因果関係についてなど、上記の知識を活用した応用的な内容を書ければと思います。
(文 フィゴーニ)
Citation (文献)
Anson, J., 2020. Inside Bordeaux The Chateaux, their wines and the terroir. 1st ed. London: Berry Bros. & Rudd Press, pp.1-100.
Berry Bros. & Rudd. (2020), [Image] LEFT BANK AND RIGHT BANK. London: Berry Bros. & Rudd Press
Berry Bros. & Rudd. (2020), [Photograph] . Photographs of soil profiles dug at Leoville Las Cases, St-Julien. London: Berry Bros. & Rudd Press